読書『わたしが正義について語るなら』(やなせたかし)

わたしが正義について語るなら (ポプラ新書)  – 2013/11/5 やなせたかし (著)

ご存知、正義の味方『アンパンマン』の作者である。正義について語る資格じゅうぶんである。

~ほんとうの正義というものはけっしてかっこうのいいものではないし、そしてそのために必ず自分も深く傷つくものです。そしてそういう捨て身、献身の心無くしては正義は行えません。~

~正義というのはあやふやなものだということ。正義のための戦いなんてどこにもないのです。正義はある日突然逆転する。逆転しない正義は献身と愛です。~

「正義はある日突然、逆転する」というのは、太平洋戦争を経験した人ならではの考えだろう。日本は「鬼畜米英」と敵国を憎み、正義のために戦った。敗戦で手のひらを返したように世の中が変わる。正義というものは、まったく主観的なものなのだ。

アンパンマンは自分の顔を子どもに食べさせるのだから、ある面自己犠牲です。正義を行う場合には本人も傷つくということをある程度覚悟しないとできません。~

自分の体の一部分を与えて、助けてやるのだ。ある意味、究極的な自己犠牲なのだ。そのうちアンパンマンは新しい顔に取り換えてもらえる。だからこそ彼は、惜しげもなく顔を分け与えることができる。

自分がそんな自己犠牲ができないのは、犠牲の回復が永遠にないのではないかという不安があるからではないか。作者は、「そんなことはない、すぐに回復できるから、どんどん自己犠牲しなさいよ」と言いたいのかもしれない。

~みんな傷つきたくないから正義なんてやらない。でもそれではいけない。傷ついてもやらなくちゃいけない。そうしないと世の中はどんどん悪くなってしまう。敢然として自分が傷つくことを怖れずにやらなくちゃいけない。~

「世の中が悪い」「時代が悪い」とつい、口にしてしまう。自分は傷つかず、自分の地位を確保した上で。世の中がどうなろうと、自分が傷つかなければいい。自分はそういう姿勢なのだろうかと思った。